6.ファータイルクレッセントの秘密
 金色と銀色の混ざったような、金属やのに温かさが伝わるような、
そんな色のプレートが出てきたんや。ムー大陸の伝説にあるオリハ
ルコン知ってるか、あの話の元ネタになったやつや。船も何もかも
海にすっかり馴染んでしもて海底色になってるのに、そのプレートだ
けは別のウインドー開いたみたいに光ってる。アフリカ象の耳ぐらい
で、結構でっかいわ。

 背の高いお兄ちゃんが、ふっくらとした小柄なお姉ちゃんの肩を
抱いて並んで立ってるレリーフが描いてある。あとはつるんつるん。
小判型の大きな板にめちゃくちゃシンプルやのに見てるだけですっ
かり優しい気持ちになってしまう二人の表情や。文字も記号もなん
もなし。

 ステラウロスがお姉ちゃんの顔に触れたら、優しい歌声が聞こえ
た。お兄ちゃんの胸に触れたら、ドキン、ドキンと心臓の音がした。
どんな人間よりも色んな事を知ってるつもりやったけど、このプレー
トは初めてや。けどこのコミュニケートの仕方は、ステラウロス達と
同じやから、ひょっとしたら仲間の誰かが教えたのかも知れん。

 めちゃくちゃシンプルな線だけの絵やのに、満たされて優しい気
持ちになるがな。これが海にしずまんとどっかの国の支配者に渡っ
てら、きっと戦争が一つか二つ起こらんと済んだかも知れん。
 「今夜はこの海の底で、プレートの上に座って眠ろう。」と思う間も
なく眠ってしもた。イルカ達とあいつはきっとあきれて帰っていったん
やろう。 ステラウロスは夢を見るみたいに、プレートの話を聞いた。
これを作った人達が伝えたかったことと、この海底に来るまでの出
来事みんなや。それはファータイルクレッセントでの物語や。

 ファータイルは肥沃なと言う意味で、よく肥えた土地の称号かな。
クレッセントは三日月の形、三角地帯のことや。チグリス川とユーフ
ラテス川に囲まれて、その氾濫でいつも肥えた泥を与えられて、
作物の実る豊かな神の地が、砂漠の大地に挟まれてあったんや。

 周りの砂漠も始めからずうっと砂ばっかりやったわけやない。
緑がいっぱいで、アフリカのジャングルみたいに多すぎることものう
て、ほんまにパラダイスみたいな時代もあったんやで。

 あのスフィンクスも最初にできたときは、緑に囲まれて、雨あがり
は、表面に張ってある飾りのいろんな色のプレートがきらきらして、
ものすごいきれいやった。 まだピラミッドなんか無かったから、
緑の大地に七色の金属で覆われたスフィンクスがどかんとおった
のは見たらびっくり、死ぬほどかっこ良かった。ただ世界中の人間
はまだ殆ど原始人やったから、すごさの解る奴は、そんなにはいて
なかったけど。

 スフィンクスの向こうには小さな神殿があった。後の時代にピラミ
ッドが作られた場所や。今でもその下には神殿が埋もれてるねんで。
そこには神様ではないけど、その時代の人間とはかなり異質な人達
が住んでた。彼等はステラウロスの仲間に何千年も前に出会って、
地上の生き物が出会ういくつもの危機を乗り切るための知識と能力
を与えられてたんや。けどその人達は自分たちが絶対やとも、地上
の支配者やとも思ってなかった。この地球の未来のに奉仕するため
に選ばれたことを知ってたんや。

 彼等は文明の種の一つを植えることにして、まず何組かの人間
の家族を選んで、それから土地を選んでん。
 ファータイルクレッセントや。
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