capten
ステラウロスの6500万年
その5

沈没船
5. ステラウロスはその鍵を見たことがあった。130年か140年、
ほんのちょっと前のことや。乗ってた帆船が紅海にしてはえろうひど
い嵐で沈んだときの、チョッサーの部屋の鍵や。チョッサーはキャプ
テンと一緒にブリッジにいてた。そうや、あのときなんかおかしいと
思たんや。うん、見に行こう。ステラウロスはカッパにバイバイをゆう
て鍵つかんで海へ飛び込んだ。  

 あの帆船はやっぱりアカバの港を出て、南に向かって走ってた。北
風が嵐に追われて、背中をどつきまくるみたいに吹いてたもんやから、
船足はすごかった。チョッサーの部屋は、港を出る前から鍵がかかっ
てて、掃除せんでもええと言われたボーイのにいちゃんは喜んでた。
チョッサーはキャプテンの部屋に間借りや。どうせ交代でブリッジに
立つんやからベッドは一つでええんやけど、船の王様と総理大臣が、
一つのベッドを共有するなんてあり得ん事や。出航の時チョッサーが
キャプテンに自分の部屋の鍵を渡してるんをステラウロスは見たんや。

 スエズ運河はまだ地中海にはつながってなかった。ちょうど掘って
る最中やった。ナイルと紅海の間の運河は2000年も前からあった
けど、アカバからヨーロッパに帰るんには、アフリカの向こうを通って
ものすごい大回りや。陸地を地中海まで行って、そこから船出した方
がなんぼか楽そうやけど、オスマントルコとか、なんかまずい事があっ
たんやろな。つまり船倉やなしにわざわざチョッサーの部屋に鍵かけ
て隠した積み荷があやしい。

 キャプテンもチョッサーもボースンも、みんな必死にがんばったんや
けど、船は追い越して行った嵐で沈んでしもて、ステラウロスは、ボー
イのにいちゃん一人助けて、なんとかちゅうサルタンのオアシスでしば
らく過ごしたんや。チョッサーの部屋のことはすっかりさっぱり忘れてた。
鍵を見て確かめに行くことにしたけど、すぐに見つかるか自信はあらへ
んかった。

 海へ飛び込んだら、さっきのイルカとあいつが待ってて、鍵を拾た
場所を覚えていると言うので、連れていってもろた。 すぐ近くやったけ
ど、鍵はもういらんようになってた。部屋の内も外も関係なしやし、それ
どころか船はばらばらのきれっぱしになって海草の畑になってた。

 お日様の光もしっかり届いて明るい海の底。白っぽい砂の上に船の
形が揺れているんや。きれいに沈んで、そのまま腐って、残骸の上に
海草が生えたんやろうけど、なかなかしゃれたオブジェに見えたで。
ブリッジがあった辺はちっちゃい丘みたいに高くなってて、その丘の中
ほどがちょっと崩れて、そこから骸骨の手が出てた。キャプテンやろ。
その骨がひつこく掴んでた鍵をあいつが取ってきたんやった。
 ステラウロスは、チョッサーの部屋があった辺をひっくり返した。しっ
ぽをブインと振ったら、衝撃波がドカン。2.3回やったら出てきたで、
秘密が。
6.ファータイルクレッセントへ