ステラウロスの6500万年 |
アカバの港を出て紅海を南に走った。カッパはオモテの手すりから 足を海の上に出して昼休みのひなたぼっこや。オモテは船の一番前 の事で、船尾はトモちゅうんや。港の外で停泊しているとき、トモから 残飯をレッコしたら、船底にくっついてた小判鮫がウワッと出てきて、 一瞬できれいにしてくれた。レッコゆうのは−Let go−の事で、 碇を降ろすのはレッコアンカー、ついでに捨てることもレッコ。 航海中はこんな風にどうでもええことばっかり頭の中をぐるぐるさせ て、次の港に近づくと気持ちもそっちへ移るんや。 二日目の昼休み、まだ紅海。ぎらぎらのお日ぃさんに光りながら、 海がカッパの足下に吸い込まれていく。その日もオモテで足をぶらぶ らさせて、ボケッと開けた口から風を入れて鼻からあふれさせてた。 船足はトロイけど、向かい風の時はけっこうスピードありそうな気ぃが する。ちょっと顔、下向けて足の下10mほどを波の形も見えへん速さ で通り過ぎてく海、見ながらあごを突き出して口を開けてたら、風が 勝手に入って、鼻から勝手に出て行きよる。海の上は海の臭いは せえへんねんで。陸の人間が海の臭いやと思てるのは、あれは磯の 臭いや。のどの奥から風がグワーと鼻の穴通って出て行く。めっちゃ くちゃ気持ちええらしいで。ステラウロスは頭の形がこのイベントに 向いてへんので、どうしても両方から風が押し入ってきてお腹が膨ら むだけやった。 きらきら通り過ぎてく海水の中に、赤い糸くずみたいなクラゲかなん かの生き物がえらいいっぱい目立つようになって、なんやと視線をあ げたら、右側のちょっと前をイルカが10頭ぐらい、船と並んで泳いで る。同時にジャンプするけど、誰か「それ行くでぇ」とか声出してるの んかなぁ。遊ぶのんがホンマに好きなやつらやなぁと見てたら、団体 さんの中にデザインとサイズがちょっとおかしいのが1頭いてた。 カッパが気が付いたら、ステラウロスがゆうた。「あいつは友達だ。 イルカじゃなくて恐竜だけど、イルカが海辺のカバだった頃からずっと 一緒にいるので、自分がなんなのかほとんど忘れている。みんな死 んでまた生まれて何回も何回も繰り返して、少しずつ変わっていくの に、自分だけずーっと同じなのはなぜなのかも、このごろは考えなく なって、話しかけても微笑むだけ。49の仲間は、あいつみたいなの が増えてきた。時間がちょっとばかりたち過ぎたかも知れない。」 イルカが賢いのはあいつのせいかとカッパが聞いたら、「それはも ともと賢いのだけれど、あいつからいろんな事を聞いているから、人 間のことや宇宙のことを知っているイルカもいる。ただイルカの言葉 も世界中でいくつもあって、基本的なことは共通語みたいな感じで 通じるけれど、ややこしいことは分からない。国境は無くても民族は あるし、能力の違いもあれば、差別もある。人間の知らないところで 戦争だってあった。」 カッパはあまり聞きたくない話を知ってしもて、 気ぃの沈むとこやったけど、動物や小さな子供がみんな天使なわけ ないのは知ってるから、そんなもんやろと、また団体さんの方を見た。 するとあいつがステラウロスを思い出したのか、船の方に近づいて きた。仲間同士、心で情報交換して、それからあいつはカッパにプレ ゼントをくれたんや。紅海の底で拾うた鍵や。 「1ST OFFISER」と書いたある。 チョッサーの鍵や。チーフオフィサーでチョッサーや。 |
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