その2
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落ちた流れ星が作った雲は、真っ黒やった。落っこちてくるときは 夕焼けのお日様みたいやったのに、バラバラになって飛び散った ダストと雲は、土砂降り雨の雲より暗い空で、地球をぐるっと覆い 尽くしたんや。そのうち北極と南極だけが、半年交代でお日様を見る ことができるようになったけど、それ以外は何年も何年もずーと薄暗 い昼間と真っ暗な夜が続いたんや。 お日様が当たらんから寒いと思うやろ。ところがめちゃくちゃ蒸し暑 かった。黒い雲は思いっきりお日様の熱を吸い込んで、宇宙には逃 がさんかったから、空気はどんどん暖まった。海の水も、川の水も、 水たまりの水も、雲になって雨になって、空と地面や海を行ったり来 たり休みなし。 ずっと暗いのに暑うて雨ばっかり。世界中がカビだらけになってしも た。仲間のはずの大きなシダ類もだんだん減っていった。海の中は 水温もそんなに変わらへんかったし、まだましやった。陸地の恐竜達 は、食べ物は減るし、体中カビだらけ。臭い空気を吸って、鼻から出 る息はいろんな色のカビで染まって、光るのもあって結構きれいやっ たで。 だんだんみんな病気になった。食べるもんも減って、変なキノコで お腹こわしたり、寝てる間に体が半分腐ってしもたり、元気な恐竜は、 陸地にはおらんようになって、ほんでもって、みーんな死んだ。 雲が薄くなって、少しずつ明るくなって、青空が戻って来るのに、 100年ほどかかった。けど恐竜の歴史から見たら、一瞬の事やった。 君が人混みでアッとけつまづいて、前を見たら世界中から誰もいなく てた、そんな感じやな。骨までカビて、何もかも腐って海に流れて行 ったから、最後の恐竜達の化石は残って無いんや。 ステラウロスは最初何とか助けようとしたんや。どこかにバラバラ になった仲間もいるはずやし、雲に穴を開けたらうまく行きそうに思 えたんやけど、世界中を照らせるような大きな穴を開け続けられる力 は無かった。それにひょっとしたらこれは地球の意志かも知れんと感 じたから、じっと見守ることにしたんや。 明るくなった空の下、のっぺりした地面には、すぐに新しい草や木 がいっぱいになった。海からは新しい王国の主達が上がってきた。こ んな風に陸地の生き物がぜーんぶ入れ替わるような事が、それから 何回か起こったし、これからもあるんやで。 陸地の恐竜はみんな死んだ。けど海と陸地を行ったり来たりしてる やつを見つけてはステラウロスが教えたんや。変な臭いのする方に は近づくな、海の中だけで暮らせってな。それでいくらかは生き残っ て今でも時々陸地をちょっとだけ覗く癖のあるやつが、どこかの海を 泳いでるで。最近は変な臭いがまたするようになったんで、先祖から 受け継いだ消えそうな記憶が声になって、できるだけ潜っているよう にしてるみたいや。 反対に元々海の中にいたやつは、緑に戻った陸地に上がって行っ た。誰が教えたんか、どんどん、どんどん浜辺に行って、行ったり来た りしながら何万年かで海には戻らなくなってしもた。中には鯨みたい に食いしん坊は、やっぱりこっちがええと帰っていったけど。 |