ステラウロスの6500万年

その1

恐竜を滅ぼしたあの隕石は、地球に宇宙の生命を落としていった。


 カリブの浅い海の底で、あいつから教えてもろたことをみんな話そ。
あの小さな恐竜が、俺に伝えた歴史の中の何千ものエピソードや。

 暑いのが当たり前の、何でもない一日の陽が沈むちょっと前、まだ
海の中にいてた。朝からずっとその辺のリーフの間で遊んでて、腰の
ロープにつけたボトルの水も無くなった。そろそろ帰ろかと静かな波
の上の空を見上げたときや。ちょっと先のテーブル珊瑚の上にポツン
と座ってた。

 俺はゴーグル一つ。フィンもつけてないし、そんなに息も続かへん。
せやのに話したら何十年もかかる記憶が残ったんや。波の上の少しオ
レンジっぽうなった陽の光がキラキラ降ってきて、あいつの目が海の
ブルーを全部吸い込んで俺に向かって光りよった。我慢している息の
こととか、水の中にいることもすっと忘れて、一瞬なんか永遠なんか
不思議にええ気分になった。

 あいつが見て、感じて、覚えてることがそのまま俺の心の中へ移っ
たんやと思う。ながーいながーい時間がたったような気もしたけど、
キラキラ三つ分ほどやった感じもした。声は聞こえへんかったと思う
けど、言葉もいっぱい教えてもろた。
 一瞬で、永遠の時間の後、思いっきり満足して、それから水の中に
いることを思い出した。息が苦しいことにも気ィついて、波を見上げ
たんや。浮かび上がって下見たら、もうあいつはいてへんかった。

 小そうて、水玉模様で、お地蔵様みたいにじっとしてて、見ただけ
やったら、本物の恐竜やとは思わへんかったやろ。テーブル珊瑚の上
に、ネオンテトラみたいな色のトライアングルがあって、そん中に座
ってた。二つの角に足置いて、もう一つの角にしっぽがあった。三角
になんやぴったりはまってた。

 名前はステラウロス。6500万年前から生きてる恐竜で、地球の一部
分みたいなもんや。大きな流れ星が今のメキシコ湾の辺りに落ちた。
海の水の何分の一かが水蒸気になってしもたみたいにすごい雲ができ
たんや。星は粉々になって雲と一緒に飛んでいった。南極も北極も赤
道も山も砂漠もみーんな曇り空。世界中が分厚い雲に閉じこめられて
しもたんや。

 その流れ星は、ただの岩の固まりとちごて、地球が生きてるように、
やっぱり生きてたんや。ちょっと間違えて落ちてしもたけど、バラバ
ラなって飛び散りながら、たましいちゅうか命ゆうか、まあ、そんな
もんが、あちこちでその辺に転がってる恐竜のたまごの命と一緒に
なったんや。全部で49個のハーフたまごができて、その中の一つが
ステラウロスや。

 地球とぶつかるまでの記憶は49個に分かれてしもたけど、全部無
くしたわけでもないわけや。それに6500万年の間にあとの48の内の
いくつかとは出おうて、欠けたところは埋めたから、宇宙の旅も結構
覚えてるんや。

 さて、どっから話そか。言葉で伝えるんは、えらい骨が折れそうや。

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